島を出よ1

2月 2nd, 2011

ピシッとしたスーツ姿で、バケツをもった紳士が捌き室にズカズカと入ってくる。
組合長がいないのが分かると、ちょっと困った風で、紳士はカツオのアラがほしい旨をケンジに伝えた。不機嫌そうなケンジは、紳士の予想通り、あそこから持っていってとプラスチック製の樽を指さし、作業の手を止めようとしない。
スーツが汚れないように思いっきり腕まくりをした紳士は、新潮に血合いをバケツに入れるとお礼を言って出ていった。
あの人は市役所の元助役でねー、父ちゃんだったら入れてあげるのに。と、自分も手を止めないミッチャンが言う。
ケンジはラジオの音で聞こえないふりをして、
ハサップ法がどうこうとかってレベルじゃないんだなー、これが。と、
数日前に自分が大島支庁の会議室で口にしたことを思い出しながら苦笑した。ミッチャンはその苦笑をいい風にとっているようだった。
ケンジの食品衛生管理にかたむける情熱は異常で、おそらくは前職でテキトーにしていた安全衛生管理の反動が出ているのだ。ただ、決して、ケンジにそんなことを言ってはいけない。ムキになって、さじ加減は知っているくらいのことは言い返してくるだろう。亀山経済研究所と会計検査で鍛えた自己弁護術は、ヤクザも政治家も顔負けなのだ。
2年目に入りずいぶんと大人しくなったケンジは、ミッチャンの手をやすめる隙を与えないように、ただただ黙々と作業を続ける。
晴れの日はちょくちょく誰かがやってくるが、今日は天気が悪く、風も強くて寒い。
捌き室に来訪者の少ない日のケンジは気分が良い。午前中の仕事も目処が立ってきた頃、ケンジの視界にまた影が入る。
権造だ。
ケンジは逆光のシルエットをチラッとみてすぐに分かった。
黙って入ってくる鬼瓦権造のような顔をしたオッサンはいつもの出で立ち。名前も素性もだれも知らない。中肉中背のオッサンの先鋭的ファッションは、世の中の大部分の人に関わらないでおこうと思わせる。
安物のストーンウォッシュのジーンズに、足下は女物のヒールだ。男物のヒールがあるかは知らないけれど、女物とつけることでヒールが悪役ではないという意味を添えておく。それがハイヒールでもローヒールでもないからで、看護婦さんの履いているものよりちょっとだけ高い。ミドルヒールという言葉があったとしてもきっとその規格からも外れるだろう。
また、ジーンズの丈が妙ちくりんで、8.7分丈くらい、
もともとのダメージか、自然にほころんだものか分からない裾からは黒の網タイツが覗いている。
上着はオッサン物のジャンパーで、上半身だけは顔とマッチしているのだ。

つづく

2 Responses to “島を出よ1”

  1. 芥川虎之助 より:

    いずれ書くのではと思ってました。
    おもしろいです。状況が目に浮かぶ・・・。ネット小説とかに出してみては。

    ところで,奄美に多いと思っていたけど,そうでもなさそう。

    http://myouji.mongolian.jp/zukan/frame/f000484.htm

  2. 宝勢丸4代目 より:

    は、は、なんの構想も立てていませんから。あと1回分しか準備していないし。
    期待しないで。
    ところで、おもしろいHPですね。
    でも、ほんとかよ、と思う。
    奄美を出てからは、徳田さんってぜーんぜん会わなかったし。
    あ、、名古屋で1人、松山で2人会っただけ、だし。
    ・・・あってるかも。

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